ローラーでパワーが出るのに実走でパワーが出ない原因

つい先日、Twitterで話題となったローラーと実走の違いについてのお話です。

私も、固定ローラー上でしかパワーを出すことの出来ない典型的なローラー番長だったことがあります。
しかし度重なる試行錯誤を経て実走のパワーを上昇させ、徐々にですがローラー番長を卒業しつつあります。

この記事では、その試行錯誤の過程で得た知見を皆様に共有したいと思います。

ローラーでパワーが出るのに実走でパワーが出ない原因

原因1.固定ローラーと実走で最適なサドル高が異なる

実走では座り漕ぎでも自転車が左右に振れます。
右脚で踏み込んだときは自転車は左側に傾き、左脚で踏み込んだときは右側に傾きます。
このとき、踏み脚側のペダルの位置が上がり、胴体も踏み脚側に動くので、実質的なサドル高は下がります。

右脚で踏み込んでいるとき、バイクは左側に傾き、胴体は右側に移動する

右脚で踏み込んでいるとき、バイクは左側に傾き、胴体は右側に移動する

固定ローラーではバイクが振れることがほとんどないため、実走のようにペダルの位置が上がってくることがありません。
そのため、固定ローラーの適正サドル高は実走よりも低くなります。

固定ローラーの適正サドル高に合わせていると、実走でパワーが出しにくくなっている可能性があります。逆も然りで、実走の適正サドル高に合わせていると、固定ローラーで漕ぎづらさを感じてしまうかもしれません。

インドア派プロトライアスリートのLionel Sanders氏も、ローラーと実走時のサドルポジションの違いについて以下のように語っています。

19分24秒~
"I find like 5 millimeters higher seat post, maybe seat a little bit further back when I go outside..."
(外に行くときは、サドルを5mm高くするし、もう少し後ろに座っているかもしれない…)

※補足

サドル高がそもそも適正の範囲から大きくずれている場合は、実走でもサドル高を下げることによってパワーが改善することもあります。
正しいポジションが出ているか不安な方は、一度フィッティングを受けてみるのが良いかもしれません。

原因2.固定ローラー上でしか通用しない身体の使い方をしている

2.1 固定ローラー特有のパワーの出し方が存在する

グロータックのウェブページで、元プロ選手の西園さんが以下のように語っています。
通常のホームトレーナーは前輪部には特になにもせず、後輪部はしっかりと固定されるものが大半であるため、どれだけ無理な動きをしても、ほとんど微動だにしません。よってパワーを出すために少々無茶な力のかけ方をしても特に問題なく受け止めてくれます。
固定ローラーでは自転車が固定されているため、実走では到底できないような身体の使い方によって、大きなパワーを出すことが出来てしまいます。  

2.2 実走では自転車が左右に振れるだけでなく、前後にも動く



上の動画の16秒~を再生して頂くと、
選手が踏み込むたびに自転車が細かな加速と減速を繰り返していることがご確認頂けると思います。
一定スピードで走っているバイクカメラと比較すると、まるで自転車が前後に動いているかのように見えます。
この細かな加減速による自転車の動きは、固定ローラーと実走が最も大きく異なる点の一つです。  

この動きに適応した身体の使い方やペダリング ができないと、ペダルに力を上手く伝えることができなかったり、登り坂でハンドルを強く引きすぎて無駄な力が入ってしまうため、実走のパワーが落ちます。

逆にこの動きを利用してパワーを生み出すのが得意な方は、実走のパワーが高く、固定ローラーのパワーが低いです。

原因3.登りの斜度に慣れていない

斜度が変化することによって、サドルのポジションが大きく変わります。

以下の二つの画像を見比べてみてください。
平坦におけるサドルの後退幅
9%の坂におけるサドルの後退幅

一目瞭然の違いがあります。
9%の坂にもなると、サドルの実質的な後退幅が大幅に増えます。

サドルのポジションがこれほど変われば、当たり前ですがパワー出力にも大きく影響していきます。
ローラーで平坦ポジションばかりで練習していれば、実走の登りでパワーを出すことが難しくなります。

原因4 ローラーと実走で走行スタイルが大きく異なる

例1.ローラーではケイデンス50-60で走るけど、実走ではケイデンス80-90以上

例2.ローラーではほとんどダンシングばかりだけど、実走ではダンシングが長続きしない

このような方は、ローラーと実走で身体の使い方が全く異なるため、パワーが乖離しやすくなります。

原因5.実走に慣れていない

実走では路面の凸凹、勾配変化、風などの影響によって、ペダリングが干渉を受けます。ローラー上ではそのような干渉を受けることがありません。
干渉を受けることに慣れていないと、実走時のペダリングの効率が低下し、ローラー上よりもパワーが下がってしまうことがあります。

原因6.Zwiftで限界まで追い込む頻度が高い

6.1 Zwiftで限界まで追い込む頻度が多すぎるのは良くない

Zwiftレース等で限界まで追い込んでパワーを絞りだすことを繰り返していると、ローラーへの過度な適応をもたらします。
結果として、ローラー上でしか通用しない身体の使い方を身に着けてしまい、実走でパワーが出しにくくなってしまうことがあります。

逆にZwiftであまり追い込まない方、Zwiftレースですぐ千切れてしまう方や、手を抜いている方ほど、実走で上手くパワーを出せます。

頑張って限界まで追い込んでいる人ほど、ローラー上のパワーは上がりますが、実走のパワーが伴わずリアルレースではうまくいかない場合が多いです。
特にFTPが5.5倍を越えるようなレベルになると、この傾向が顕著に表れます。

これは2年以上Zwiftをやり込んで、色んな人のトレーニングを見てきた経験則に基づく考えです。誤りだと思う場合は適当に聞き流して頂けると幸いです。

6.2 十分なベースが伴わない状態での過剰な追い込みは良くない

ベースが伴ってない状態で追い込む練習をしていると、みかけのパワー数値が上昇しても、レース本番で力が発揮できないことがあります。高地にも弱くなります。理由を書くと長くなり脱線してしまうのでまたの機会にしますが・・・とりあえず、ベースは大事です。

原因7.使用しているローラーの負荷のかかり方が実走と大きく乖離してい

ローラーは色んな種類がありますが、中には実走の負荷を全く再現出来ていないものも存在します。
そのようなローラーを使ってトレーニングをすると、実走で上手くパワーを出すことができなくなるので、注意しなければいけません。

Tacx Neo、Tacx Neo 2

スペック上は20%以上まで再現すると書かれていますが、実際は6%の登りでさえ再現できておらず、砂浜の中でスリップしているような非常に不自然な感覚になります(※自動負荷を100%にした場合)。このような状態で練習しても実走ではあまり役に立たないのでくれぐれも気を付けましょう。自動負荷をオフにして使用することをオススメします。
Tacx Neo 2Tでは登りの再現が改善しているとの情報があります。(ただ自分で確かめていないので真偽はわかりません。)

Cycleops Hammer

これも登り坂の再現が不自然です。Neoとは異なりスリップはしないのですが、踏み込み時のフライホイールの加速が鈍すぎます。ペダリング中の角速度の変動の仕方や、デッドスポットの通過時の感覚が、実走の登りのソレとは明らかに違います。私はこのローラーで自動負荷を使って練習した結果、2018年のツールド八ヶ岳と榛名山ヒルクライムでまともに走ることができずとても惨めな思いをしたので、ヒルクライムの練習をしたい方には絶対にオススメしません。
自動負荷をオフにして、平坦やスプリントの練習をする分には自然な感覚で走れるので、そのような用途で使う分にはオススメです。

Kickr Core、Kickr V3、Kickr V4

現状購入できるローラーの中では最も自然な自動負荷です。実走の感覚を完璧に再現できているわけではないので不自然に感じることもあるとは思いますが、上2機種に比べるとマシです。

Noza

走行感はKickrに近い印象です。それ以外の情報についてはよくわからないので購入をご検討されている場合はよくお調べになった方が良いと思います。

Drivo、Direto

負荷のかかり方自体はKickr/Nozaより若干良いと思います。
ただし自動負荷を100%に設定すると負荷の変動が不自然になります。
例えば0%の平坦から8%の登りに入るとき、Kickr/Nozaは平坦の助走を伴って徐々にフライホイールが減速していくのに対し、Drivo/Diretoは助走など関係なくいきなり減速します。
このような動作をするのはフライホイールの仮想速度をシミュレートしていないためと考えられます。
自動負荷50~80%くらいで使うのが丁度良い印象です。
(ファームウェアアップデートやDrivo Ⅱ Direto Ⅱで改善されたかどうかは未確認です。良かったら情報提供いただけると助かります。)

原因8.パワーメーターによっては特定の負荷のかかり方においてパワーを高く出す傾向にある

Rotorの2Inpowerは、固定ローラー上でパワーを高く読むことが確認されています。

At this point, I’m a bit perplexed. Quite frankly, with the exception of the LIMITS power meter, it’s incredibly rare for power meters these days to have oddities on indoor trainers.  It’s kinda the easiest bar to pass.  So I started chatting with Shane Miller, who is also working on a review of the ROTOR 2INpower.  And perhaps, more importantly, he’s got just about as much gear to cross-reference power meters as I do.  Plus, he’s technical enough to trust that he’s ‘doing it right’, when it comes to calibration/etc…
And sure enough – he’s seeing the exact same things I am:
– Indoor rides with the Tacx Neo, PowerTap P1, and ROTOR 2INpower: All of which have the 2INpower slightly higher than expected.
– Indoor rides with the CycleOps Hammer, PowerTap P1, and ROTOR 2INPower: Again, 2INpower slightly higher than expected.

パワー測定のアルゴリズムに起因するものだと考えられます。他のRotor製のパワーメーターもアルゴリズムに根本的な違いがないとすれば同様の性質を持つ可能性があります。

またIAVパワーが実装されたFavero Assiomaも、角速度の変動が激しい特殊な負荷のかかり方をするローラーにおいてパワーを若干高く読む傾向にあります。

逆にそのような負荷のかかり方でパワーを低く読むパワーメーターも存在します。
IAVパワーが実装される前のAssiomaは低く読んでいました。)

タイヤ式ローラーを使っている方、パワーを出すのが異様に難しいと感じていませんか。
タイヤ式はスリップするため大臀筋が使いづらく大腿四頭筋を酷使してしまうなどの要因もありますが、パワーメーター自体が低く読んでいる可能性もあります。

まとめ

書くのに時間がかかりすぎたので今回はここまでにします。

いかがだったでしょうか。

次回は【どうしたらローラーと実走のパワー差を埋められるようになるか】をテーマに記事を書きたいと思います書かかないかもしれません。

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